骨粗鬆症財団20年のあゆみ
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8 骨粗鬆症は4,000年以上前のエジプトのミイラにも見られる、人類の歴史と共に古い病気ですが、その病態が次第に明らかになり、更に治療や予防法も現実のものとなったのは20世紀も後半、第二次世界大戦の戦後で医学の中心がヨーロッパからアメリカに移っていった頃からです。初めて骨粗鬆症を代謝性骨疾患として位置づけたAlbrightの名著Parathyroid Glands and Metabolic Bone Diseaseは余りにも有名ですが、その流れはParathyroid Conference として引継がれ,第8回が1983年にInternational Conference of Calcium Regulating Hormonesとして神戸で行われ、多くの日本人研究者の骨粗鬆症領域での活躍が始まりました。 骨粗鬆症財団の設立の背景にはこの様な学問の発展の流れがあり、更に「老化現象だから治らない」と今でも一部の臨床家が信じている骨粗鬆症の有効な薬剤を開発したいくつかの企業の支えがありました。財団の職員への社員の出向を始め、財団設立の基金の拠出、賛助会員としての支援等、改めて深い感謝を捧げます。ことに当時東洋醸造株式会社に所属していた初代事務局長大久保秀氏の重要な貢献を忘れる人はいないでしょう。各企業を回って財団の意義を説明し、また関係官庁にも日参し、不可能と思われていた財団設立を可能にしました。厚生省石丸隆治局長の懇切な御指導は正に頂門の一針であってこれ以上心強い味方はありませんでした。東大老年病学吉川政己先生はいつも我々の努力を温かく見守ってくださり、初代理事長の任を果していただきました。その後の財団の社会啓発と研究支援の活動は着実に発展しましたが、世界の経済情勢の影響を受けざるを得ず、後援者の熱意に充分に答えることができない悩みを抱いたこともなかったわけではありません。しかしもっぱら地味な努力の成果は次第に明らかになっています。財団設立当時、専門家だけのものであった骨粗鬆症という言葉が、今ではすべての人の口にのぼります。社会全体の健康観念に静かな革命を起こしたのです。 今後の骨粗鬆症財団の進路は,このような地味な努力の継続以外にないことは言うまでもありません。最近の骨粗鬆症の知見の進歩は著しく、人口の高齢化に伴う生活習慣病、ことに肥満、糖尿病、高血圧、高脂血症等を発現するメタボリック症候群、認知症等の変性神経疾患等とともに高齢者の健康と福祉に対する最大の脅威と認識されています。これらの疾患はすべて長年の生活習慣によって蓄積された代謝異常によると考えられ、骨粗鬆症の原因としてのカルシウム不足、メタボリック症候群の発現の中心的役割を果す脂質代謝異常、更にこの両者を結合し老化と寿命の決定に大きな影響をもつ酸化ストレスと過酸化物の生成に注目が集まっています。 骨粗鬆症は骨だけの問題ではなく、隣接する軟骨、筋肉その他の運動器、心臓血管等の循環器、更公益財団法人骨粗鬆症財団 理事神戸大学名誉教授藤田 拓男骨粗鬆症財団設立当時の思い出

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