骨粗鬆症財団設立30周年記念誌 OSTEOPOROSIS
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12【注釈】※1リモデリング:破骨細胞が古い骨を破壊し、骨芽細胞がその欠乏部分に骨基質を充填し骨形成を行う現象。※2シークエンサー:DNAなどの塩基配列を解析するための装置。生物から取り出したDNAを制限酵素などで断片化し、ベクターと結合させたうえでクローニングを行う。1974年、東京大学医学部医学科卒業。1978年、米国エール大学内科研究員。1982年、東京大学医学部第4内科助手。1986年、医学博士(東京大学)。1988年、東京大学医学部第4内科講師。1996年、徳島大学医学部内科学第1講座教授。2002年、徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部生体情報内科学教授。2014年、徳島大学藤井節郎記念医科学センター長。骨粗鬆症財団理事。宙飛行士は、地球に帰還して、宇宙船から引っ張り出してもすぐには立てなくて、寝かせて運んだりしていました。それに比べ最近の宇宙飛行士は、古川さんをはじめ、降りられたら普通に歩いていますが、それは宇宙ステーションにトレーニングする機械があり、それでトレーニングをして筋肉を保っているからでしょう。 ところが、その機械で鍛えられるのは足とか腕とかの筋肉に限られているので、例えば、頭を支える筋肉は鍛えられない。朝起きて起き上がろうと思ったら頭が上がらなかったというお話がありました。榎本 古川さん、そんなに頭が重かったんですか。古川 重かったですね。頭は体重の1割ぐらいあると言われています。ボウリングのボールぐらいですね。宇宙での感覚ですと頭の重さなんて感じないので普通に起き上がれるのですが、地上に戻ってそれがまったくできなくて苦労しました。宇宙時代の究極のアンチエイジング松本 宇宙というのは極端に重力負荷がない環境です。微小重力の環境において、しかも半年という長期間にわたって宇宙飛行士が宇宙に滞在することになると、地上で生活している時と異なることが起こります。 骨については、地上では常に壊されては作られるというリモデリング※1を繰り返しているのですが、宇宙のような負荷がない環境ですと、骨吸収のシグナルが常にオンのような状態となって骨形成が十分に行われません。そのため骨密度は約1カ月間に1.0~1.5%減少し、骨量減少速度は約10倍になると報告されています。 骨にはカルシウムやタンパク質の一種であるコラーゲンなどがたくさんあるのですが、骨が壊れて溶け出てくると、カルシウムやコラーゲンが分解されたアミノ酸成分の代謝物がシュウ酸やカルシウムといっしょになって結石を作る成分になっていき、尿路結石のリスクが非常に高くなります。宇宙空間で尿路結石の発作が起こると大変なので、これを防ぐための骨吸収を抑制する薬剤を使った研究を宇宙飛行士に対象に行っています。榎本 続いて古川さんにお聞きしたいのですが、古川さんが取り組まれている研究について教えてください。古川 人類が長期間宇宙に滞在するときには、様々な医学的な課題があります。そういった課題を解決していこうということで、松本先生をはじめ大学や研究機関の先生のお力をお借りしてJAXAでは研究を進めています。 例えば、免疫と腸内細菌の関係についての研究ですが、腸内細菌のバランスが崩れると免疫に影響が及ぶことがわかっていますし、ストレスがかかると腸内細菌そのもののバランスが変わることがわかってきました。宇宙に行ったときに腸内細菌のバランスがどう変わるのかについては、1980年代ぐらいの古い方法では調べられているのですが、最新のシークエンサー※2を使うなどの研究はまだまだ少ない状況です。そこで宇宙に長期滞在したときに腸内細菌のバランスがどう変わるかを調べるような研究が進行中です。榎本 宇宙旅行では人間の体の中でいろいろな変化があるということですね。松本 宇宙にいる間は筋肉の落ち方もすごいので、1986年に打ち上げられたミール宇宙ステーションの宇松本 俊夫(まつもと・としお)

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