骨粗鬆症財団設立30周年記念誌 OSTEOPOROSIS
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14写真提供:JAXA/NASA無重力状態での古川さん宇宙時代の究極のアンチエイジングなければいけないという意味で、いろいろな宇宙食が必要になってくると思うのですが、古川さんはどんな宇宙食を食べたいと思っていらっしゃいましたか。古川 宇宙にいたときに思ったのは、保存食はおいしくて種類もたくさんあって、とてもありがたいのですが、ただそればかりを毎日食べていると、新鮮な野菜とか果物、生魚等がすごく懐かしくなってきました。ですので、2カ月に1度やってくる宇宙貨物船の中にちょっとだけ果物とか野菜が載っていると、それがとても新鮮でした。ぜひ宇宙食でも新鮮な果物とか野菜、あるいは栄養学的にもよくておいしいものが食べられるようになるといいですね。榎本 松本先生、これからは宇宙に行ったときに、栄養を補給して健康を保つという意味では食事が大事になってきますね。松本 そうですね。特に骨についてはカルシウムをいっぱいとれば骨にいくかというとそうではなくて、骨の出入りを調節している体の仕組み自体が微小重力で狂っていますので、カルシウムをたくさん食べても、その分が尿に行くだけで尿路結石を増やしかねないのです。これが非常に問題で、結石の成分が結晶しにくいものにクエン酸がありますが、古川さんはクエン酸などが多く含まれた食品を摂られていたのでしょうか。古川 クエン酸を特に補充はしていませんでした。ビタミンDは摂っていましたが。松本 そうですか。NASAの研究者がクエン酸の研究成績などにより、栄養的な面と運動により骨の減少をかなり防ぐことができるということを主張しています。ビタミンDは骨での吸収形成バランスを改善する目的ですね。古川 松本先生が研究なされているビスホスホネートという治療薬を経口摂取して、骨吸収を抑えたり、尿中へのカルシウムやリンの排泄を防ぐという研究の対象者に、私も参加させていただきまして大変光栄でした。おかげさまで骨密度は大変よく保たれておりました。ありがとうございました。榎本 古川さんが試されたことの研究結果を松本先生が分析されたということですよね。松本先生、分析の結果はいかがだったのですか。松本 骨に関してはもう論文が出ているんですが、骨吸収を抑える薬剤であらゆる部位での骨減少を防止することができます。特にもともと骨代謝回転が速い海綿骨は、骨吸収抑制薬によって、宇宙飛行に行く前より増えてるという成果もあります。骨粗鬆症の患者さんにもそういう薬を使うと骨量が増えるのですが、それと同じように宇宙でも骨量が増えているという結果が出ており、古川さんをはじめとする方々にご協力いただいたおかげでそういう結果を得ることができました。榎本 古川さんご自身、個人的にされていた、宇宙滞在中のケアって何かありますでしょうか。古川 特別にはないですね。私はもともと野球部出身なので、運動自体は好きですし、ストレス発散にもなりますので、あまり苦にならずに運動していました。食事は特別なものではないですけど、米国の標準食の他に宇宙日本食というのがあって、そういうのも持って行きました。カレーライスだとかサバのみそ煮だとかとてもおいしかったですね。そういったものを多めに持っていき、ロシアの缶詰と交換したりして、バラエティに富んだ食事を心がけていました。榎本 健康を保つためには心が豊かになることも大事になってきそうですね。古川 宇宙に滞在するということにおいて、精神的なモチベーションを高めたり、仕事のやる気を高めるアイテムはとても重要じゃないかなと思います。宇宙ステーションですと、地球の周りを周回しているので美しい地球が見えるのはすごく心の支えになるのですが、これから火星をめざすということになるとどんどん地球が遠ざかっていきますので、そういう精神的な支えがとても大切になると思います。

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