骨粗鬆症財団設立30周年記念誌 OSTEOPOROSIS
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15写真提供:JAXA/NASA/Bill Ingalls写真提供:JAXA/NASA/Victor Zelentsov着陸直後に運ばれる古川さん地上におけるトレーニング榎本 ここまでは宇宙空間における生活のお話をお聞きしてきたのですが、地球に帰還されてからの体の変化についてお聞きできればと思います。帰還された宇宙飛行士がすぐには歩けず、担架で運ばれるという映像を何度も見たことがあるのですが、帰還された後、体はどんな状態になっているのでしょうか。古川 宇宙に行くとすべてが相対的になります。今、天井のように見えているところも対象が入れ替わり、そこを足にした途端に感覚がくるっと入れ替わって、そこが床になり、今まで床だったところが天井になるというような、すべて相対的な世界なのです。とても不思議な経験でした。ソユーズ宇宙船で帰ってきた時のことですが、パラシュートを開いてドンと地球に着陸し、その後ごろごろっと転がった感覚があって止まった時、3人で交わした言葉が「おい、どっちが上だ?」。榎本 地面があって空があるのに、上下の感覚がわからないのですね、古川 自分の感覚ではまったくわからないので、「どうしよう」って言っていたら、2回目の飛行だった船長に「手を前に出してみて落ちた方向が下だ」と言われて、それでようやく判断ができるような世界なのです。 船内の運動装置がとても良くなったので、筋力はかなり保たれるようになったのですが、バランス感覚が不安定なので、地上に戻った直後は歩きにくい状況です。 その後、NASAの45日間のリハビリプログラムを受け、それを終えるとほぼ元に戻りました。「完全に元に戻るまでは宇宙に行っていた期間と同じぐらいかかるよ」と先輩から聞かされてたのですが、そのとおりでした。榎本 そこまで体の変化があっても、45日間のトレーニングで元に戻るのですね。古川 はい。人の体の適応性というのはすごいなと思いました。ただし、その45日間のプログラムが体育会系の結構厳しいもので、特に最初は厳しくてへとへとでした。家に帰って玄関開けたら、そのまま倒れて寝てしまいたいぐらいで、学生時代の野球部の練習を思い出しました。榎本 まだまだ宇宙で生活する上での課題はあると思うのですが、ここまでお話を伺ってきて、宇宙医学というのは特殊な状況下でそれをサポートするような環境によってできていることがわかりました。これは地球上の私たちにも役に立つのではないかなと思うのですが、松本先生、こうした宇宙での体験が運動療法とか、これからのアンチエイジングに役立つものにつながる可能性はあるのでしょうか。松本 そうですね。いわゆる高齢者の運動能力を保持する、要するに自律機能を保とうという場合に、筋力を鍛えるようなことが必要ですよね。榎本 古川さんはどのようにお考えですか。  どちらが天井かわからない世界       宇宙医学の研究           

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