骨粗鬆症財団設立30周年記念誌 OSTEOPOROSIS
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16写真提供:JAXA火星旅行も夢ではない時代に宇宙時代の究極のアンチエイジング古川 宇宙滞在中の、液体生検による血漿中核酸のゲノム、エピゲノム解析について筑波大学の村谷匡史先生らが研究されています。人の血液の中には体内の細胞から放出された小さな核酸、DNAとかRNAが循環しています。それを比較的採取しやすい血液のサンプルから解析することで、直接アクセスできないような臓器、脳等の状態を知ることができるという研究です。 この研究では、宇宙飛行士の血液中の細胞外DNAとか循環RNAを次世代シークエンサーで網羅的に解析して、臓器とかがどのように宇宙環境に適応して応答しているかということを、ゲノム、エピゲノムといった遺伝子やDNAの配列機序レベルで解明することができます。 これがどのように役に立つかといいますと、今後、地上での老化にともなう骨や筋肉の変化を対象としたような医薬品、検査器や検査技術の開発に応用可能ではないかということです。榎本 なるほど。ということはですね、地上の私たちの体に活用するための第一歩を今、踏み出したということでしょうか。松本 そうですね。これは医学ではないのですが、農学研究者なども加わってJAXAに提案されているものの中に、宇宙で植物を飼育して、食料を宇宙で確保しようという研究もあります。古川 国際宇宙ステーションでも野菜の栽培の実証実験が行われており、これまでにロメインレタスや水菜、レッドロシアンケールとか、そういった野菜が作られています。日本人飛行士でも、油井亀美也飛行士が2015年頃に、宇宙で作られた葉っぱが赤いタイプのロメインレタスを試食していました。松本 宇宙は孤立した、過酷な環境ですので、食糧確保というのは病気を防ぐというのと同じくらいすごく重要だと思いますね。古川 地上の役に立つというところでは、タンパク質結晶生成実験というのがあります。地上の重力環境と違い、宇宙の無重力の環境ですと、対流とか沈殿とかが起こらないので、良い品質のタンパク質の結晶ができます。それを地上に持ち帰ってきて詳しく分析することで、非常に細かい立体構造が分かります。それにより新しい薬の候補をコンピュータで効率的に探し出すことができるというので、特殊な宇宙環境を使って地上の生活をより良くするための研究の例ですね。榎本 松本先生はこのような研究に興味がおありではないですか。宇宙でのきれいな結晶作りというのは。松本 そうですね。ドラッグデザインの基本となるのは酵素の反応ポケットの構造なのです。その溝にぴったりはまるような構造のものを想定して、そこにそのような形をとる化合物を合成するというわけなので、酵素ポケットの反応部位の構造を見つけるという上で、宇宙という無重力の環境が非常に適しており、これは創薬にも非常に役立つのではないかと思います。榎本 ここからは宇宙飛行のお話に移らせていただきます。2021年は「宇宙旅行元年」とも言われており、宇宙旅行に向けた取り組みが本格的になってきています。松本先生は気になるニュースはございますか。松本 一番気になるのは、Amazon創業者のジェフ・ベゾスといっしょに行く有人宇宙飛行の搭乗権利を30億円で落札したという話だと思います。あれは弾道飛行で、昇って降りる、その間だけ無重力ということです。この4分のために30億円ですから、8秒で1億円ということですね。  誰もが気軽に宇宙に行ける時代に   

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