骨粗鬆症財団設立30周年記念誌 OSTEOPOROSIS
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20骨粗鬆症と共創社会政など、患者さんの日常生活を支える多くの職種が骨折と転倒のリスクを十分に共有し、オーダーメイドかつ包括的な医療やケアができる仕組みをつくることも大事かと思います。介護予防の点からも、骨粗鬆症の啓発、予防、診断、治療は非常に重要です。三浦 骨折は要介護状態を引き起こし、健康寿命を縮める大きな要因ということが広く理解されていないのでしょうか。小川 骨粗鬆症によって骨折しやすいというイメージが一般には浸透しにくい面もあるのかもしれません。認知症に伴って転倒・骨折リスクが高くなることなども結びつきにくいかもしれません。三浦 認知症対策だけをしっかりやっても、結局骨折して健康的な生活を失ってしまうということでしょうか。小川 「骨粗鬆症対策における共創」というテーマにおいて、家族単位で骨粗鬆症についてともに考えることが大切だと思います。 骨粗鬆症について高齢者に特有の病気と決めつけず、家族や親族といった身近な世代間で、骨の健康や栄養・運動の大切さを話し合い、世帯全体で取り組むことも大切だと思います。骨粗鬆症は世代間で取り組みや意識を共有できる疾患だと思います。寺内 幼児期からの教育が将来の健康に深く関与してくるのが骨粗鬆症という疾患の非常に特徴的なところです。まず家庭での食育、次に学校における食事や運動教育などを通して、子どものうちからどのように健康的な生活を送るか、縦断的な視点で共創していくべきです。三浦 小、中、高校生の世代に「将来的に大変なことにつながりますよ」あるいは「××年後に骨が折れますよ」などと言っても、なかなか興味を持ってもらうのは難しいと感じられます。寺内 日本では、非常に特異的に若年女性の痩せが多いです。極端なダイエットによる、無月経とエストロゲン低下、低栄養などが重なって、将来の骨粗鬆症予備群をどんどん生み出している状態です。三浦 背景にあるのは、女性は痩せているイコール美しいという考えからでしょうか。若い人にはどのようにフィードバックしたらいいと考えますか。寺内 極端に痩せて月経が来なくなったなどの理由で来院される患者さんには食事や意識の面で医師が介入することが可能です。その前段階、つまり見た目では大きな問題がなさそうに見える人となると、介入ポイントがないので医療現場でできることは少なくなります。三浦 では前段階での介入となると、小川先生のおっしゃるような学校教育、保健センターなどでの関わりが必要と思われますか。寺内 私がひとつのきっかけになりそうと考えているのは「親の介護」です。私の診療科を訪れる患者さんは40、50歳代の人が多く、親を介護している世代です。自分自身は将来、できるだけ介護の世話になりたくないという意識が、検査を受けるといった予防的な行動につながっているとみています。その40、50歳代の人が自分よりさらに下の子どもの世代に対して積極的に働きかけてくれたら、若い人へのアプローチにつながると期待できます。三浦 前段階、つまり予防について病院が介入するとなると、医療機関の基本は病気を治すことについて診療報酬をもらって運営している施設ですから、難しい面もありそうです。石橋 しかし予防の必要度を一番理解しているのも病院ということになります。私の病院では、講演会の開催やパンフレットの配布、診察室の壁に情報ボードを掲示するなどして、皆さんに骨粗鬆症や骨折について知ってもらう取り組みをしています。病院が予防について啓発することは非常に重要ですが、どうしても業務外となるためボラインティアという側面が強いです。スタッフの善意や熱意だけで継続していくのは限界があるかもしれません。

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