牛乳や乳製品を摂取すると骨粗鬆症になりやすい?
国内外の骨粗鬆症に関する専門家が集まる学会で、「牛乳や乳製品が骨粗鬆症の原因になる」という報告は行われていません。
逆に、「牛乳をたくさん飲むとカルシウムの摂取につながり、骨粗鬆症の予防に有効である」との研究結果が、世界中の多くの研究者や医師により報告されています。国内では、牛乳や乳製品の摂取量を増やすと小児期には骨量の増加に役立ち、中高年期の女性の場合は閉経後の骨量減少を抑えるという検証結果が発表されています(2002年度厚生労働省科学研究など)。
現段階では、「牛乳や乳製品が骨粗鬆症の原因になる」という情報は、科学的なデータに基づかない意見であると思われます。
日本人は牛乳に含まれる「乳糖」が分解できないので、牛乳の栄養分を吸収できないとききましたが
牛乳に含まれる乳糖を分解できない「乳糖不耐症」に該当する人は、白人よりも東洋人に多いといわれています。乳糖不耐症の方は牛乳中の糖質(=乳糖)を消化する酵素が少ないため、牛乳を飲むと下痢をします。
日本人に限らず、離乳期を過ぎると乳糖を分解する能力は低下しますが、一度に大量の乳糖を摂取しない限り、成人でも乳糖は分解できます。
ある大学で行われた研究では、20歳代の女性49人が30gの乳糖をとっても下痢をせず、40gを超えると49人中5人が下痢をしました。牛乳1本に含まれる乳糖は約10gなので、牛乳1本で下痢を起こす方は少ないと思われます。
また、牛乳1本で下痢を起こす方でも、牛乳を温めて、少しずつゆっくり飲めば大丈夫なケースが多いのも事実です。
現段階では、「牛乳や乳製品が骨粗鬆症の原因になる」という情報は、科学的なデータに基づかない意見であると思われます。
牛乳のタンパク質は胃の中で固まり、消化に悪いのですか
牛乳のタンパク質は胃の中で固まったり、腸で腐敗して、花粉症やアトピー、癌などの原因になるって本当ですか
牛乳に含まれているタンパク質の約80%を占める「カゼイン」が胃の中に入ると、胃酸やタンパク質を分解する酵素(ペプシン)のはたらきでいったん固まりますが、その後ゆっくりと確実に分解(消化)されます。
タンパク質が酸などの作用で固まる現象を「凝集」と呼びます。凝集によって消化酵素がはたらきにくくなると考えるのは間違いです。
牛乳を飲むと血液中のカルシウム濃度が急上昇して、逆にカルシウムが排泄されて腎臓結石の原因になる?
体内のカルシウムは骨の中に99%、血液や細胞の中に残りの1%が含まれています。 血液中のカルシウム濃度を一定に保たないと心臓などのはたらきに支障を来すため、血液や細胞中のカルシウムが少ない場合は骨の中からカルシウムを取り出します。
逆に、血液中のカルシウム濃度が上昇すると、カルシウムを骨の中に取り込んだり、一部を尿の中に排泄して調節します。人間の体温が常に37度なのと同様に、カルシウム濃度も一定に保たれているのです。牛乳を飲んでも、通常の摂取量であれば問題はありませんし、腎臓結石の原因にはなりません。
カルシウムについては摂取不足の方が問題です。カルシウムの上限量は2,300mg/日ですが、日本人のカルシウム摂取量は、最低限必要な600mg/日にも達していません。カルシウム不足の状態が続くと骨からどんどんカルシウムを取り出すため、骨粗鬆症の原因になります。
乳製品を多く摂取する欧米人に骨粗鬆症が多い?
骨粗鬆症になる危険因子として、「除去しえない危険因子」と「除去しうる危険因子」の2種類があります(骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版)。
除去しえない危険因子
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除去しうる危険因子
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加齢
性(年齢)
人種
骨折家族歴
遅い初経
早期閉経
過去の骨折 |
カルシウム不足
ビタミンD不足
ビタミンK不足
リンの過剰摂取
食塩の過剰摂取
極端な食事制限 (ダイエット)
運動不足
日照不足
喫煙
過度の飲酒
多量のコーヒー |
「除去しえない危険因子」に人種と家族歴があることからも明かなように、骨粗鬆症の危険因子には遺伝の要素が含まれており、もともと黄色人種や黒人に比べて、白人は骨粗鬆症になりやすいのです。
一方、「除去しうる危険因子」に「乳製品の摂取」は含まれていませんし、上記のように非常に多くの因子が関係しますので、「(乳製品を多く摂取する)欧米人に骨粗鬆症が多い」かもしれませんが、「乳製品を多く摂取すると骨粗鬆症になる」という意味ではありません。
アジアやアフリカなどの発展途上国では平均寿命が短いため、多くの方は骨粗鬆症になる前に亡くなっています。日本でも第二次世界大戦前には各種の感染症で亡くなる方が多く、平均寿命が短かったため骨粗鬆症は大きな問題になりませんでした。今後、アジア地区でも平均寿命の伸びとともに骨粗鬆症患者の増加が予想されています。
胃弱で牛乳が苦手です。どうしたらよいのでしょうか
確かに牛乳はカルシウム補給の代表的な食品です。でも、牛乳が飲めなくても心配することはありません。
まず、ヨーグルトやチーズ、アイスクリームなどの牛乳以外の乳製品を試してみることです。
それも無理でしたら、小魚や海草、豆腐や納豆、緑黄野菜などのカルシウムをたくさん含む食品をじゅうぶんとるように心がけます。これらの食品をまんべんなくとることは、骨粗鬆症をはじめとして高血圧や高脂血症などの生活習慣病の予防にもなります。まさに「災い転じて福となす」を地でいくことになります。